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  • 宇野 重起

病院経営とデータ分析(BIツール)

1.はじめに

今日の病院経営を考えると、多くの複雑な要素に取り囲まれている状況であることは周知の事実である。今や病院経営を考える、議論する上で「データ」の存在を無視して進めることは出来ない状況になった…と言える。1つの医療機関を見ても多くのデータの存在の中で経営の舵取りをしなければならず、一口にデータと言っても、院内にあるデータもあれば院外にあるものもあり非常に多くのデータが存在を意識する必要がある。この多くのデータの中から何を取捨選択して分析し、自院の継続と発展に繋げていけるかは、今や医療経営における必須要件と言っても過言ではない。

医療経営におけるデータの取扱は、病院毎にまちまちであり、共通する部分は非常に少ない。しかし、多くの医療現場を見てきて、同じようなデータを複数部署で扱っているという部分は共通するとも言える。この「共通する」という内容は、良い面ではなく悪い面としての共通部分となることを忘れてはならない。同じようなデータを複数部署で管理することは、時間と労力の無駄に繋がるばかりか、扱うデータの精度によって得られる答えが異なることから、完全一致という最終形にならないことからも、院内での扱いに苦慮する部分は多いのかも知れない。


2.データの精度

 医師の立場であれば、この「精度」というワードの表す意味がおわかり頂けると思うが、医療現場には多くの職種/職員が在籍しており、このワードの持つ意味を理解している職員は、医師が思うほど多くはない。改めて、「データの精度」と言うことにも着目していかなければ、多くのデータを扱い、その解から経営を進めると言うことに繋がっていかない。データの精度とは何か?それは、データの「質」と認識できるだろう。病院内で扱われるデータは、電子カルテや医事コンに収納されているものだけではなく、それらを元に各部署がExcel/Access等で管理を行っているはずである。さらに、これら元データに情報を追加して、部署独自のデータとして管理されていることが一般的である。Excelを例に挙げると、Excelというソフトは非常に汎用性が高く、表計算から文書作成、データベース構築まで、ほぼ何でも出来る万能ソフトであるが、それが故に、入力される内容も多義に渡り、入力する人も、特定された個人ではない場合が多い。入力をする際に担当者が注意することは、「入力の内容」に細心の注意を払って入力が行われるが、実際には、「入力の内容」が正しくても、それ以外の部分は余り意識が向かないことが多い。専従担当者であれば、細かなルールを決めて入力が行われるので「データの質」は一定程度担保されが、多くの入力担当者が入れ替わり扱う場合には、その限りではない。細かい話ではあるが、「データの質」とは、半角/全角、スペースの取り方、日本語表記/英語表記…と言った細かな入力内容の事になる。

一例を挙げよう…糖尿病という疾患に対して

① DM/DM/dm/dm(半角/全角/大文字/小文字)

② 2型糖尿病/t2DM/t2DM/DM(Ⅱ)/DM(Ⅱ)…Ⅰ型も同様(半角/全角/表記揺れ)

③ 入力される疾患と疾患の間を「スペース」/「、」/「,」(半角/全角/表記揺れ)

ここに列記しただけでも、PCは集計時に全て別物として認識する事を意識して入力作業が行われることは少ない。しかし、これら膨大に蓄積されるデータは、各医療機関の財産でもあり、経営判断に大きなインパクトを与える可能性があることを知る必要性がある。こういうデータの整合性を綺麗に統一し、本当のデータとして使えるようにする作業を、「データクリーニング」/「データクレンジング」とも言う

入力されるデータがどのような状態であっても、これらクリーニング/クレンジングと言った作業が出来れば、データがデータとしての価値あるものになるのだが、前述の通り、複数部署で管理されるようなデータでの整合性は困難を極める。最善の策は「データの一元管理」であるが、そうなっていない医療機関は多く、仮に一元管理が出来たとしても専従要員として人員配置することは難しい場合が多い。


3.データ分析

前述のように、データの精度(質)が担保されても、その先には分析作業という業務が存在する。この分析結果から、何をどう読み、どう解釈して自院の今後に繋げていくのか?という経営判断は簡単ではない。しかし、経営判断の元となる分析作業に多くの時間を費やしてしまうと、今度はタイミングを逸してしまうと可能性が出る。さらに時間短縮のために、配置人員数を増やせば人件費に跳ね返る。医療という一般企業とは異なる環境での仕事は、ただ、「目前の分析が出来れば良い」と言うことにはならない。ただ分析が出来れば良いと言うことであれば、SE的人員を配置することである程度の解決策を見出すことが出来るが、多くの公的縛りが存在し、それらに対する一定程度の理解も必要となると、話は簡単ではなくなる。限られた時間(業務時間)を如何に有効に活用して成果を出すか?これからの医療では、そのような事も求められる時代である。医師の働き方改革で、タスクシフト/シェアということが議論されているが、医師以外の職種にも多くの負荷がかかる時代に変化しつつあることを認識しなければならない。医師以外の職種に多くの負荷がかかる=効率的な仕事のやり方の検討に繋がる。分析作業も一昔前までは、多くの時間を割いて分析作業を行ってきたが、これからは、少ない時間でまたは、従前と同じ時間でもより精度の高い内容のアウトプットが求められる時代になっている。診療報酬においても、データの可視化が議論されており2022年改定でもそのような内容は取り込まれてくる可能性がある。


4.データの見せ方

 今まで述べてきたように、データの扱いから分析までをどう考えていくか?は非常に重要な内容になる。PC好きの事務職員であれば、ひそかに色々考えている場合もちらほら見かけるが、その数は極めて少なく、それを実行できても給与に反映されることがない環境が多い中では、自ら名乗り出て…と言う状況にはならない。医療機関内で開催される会議や経営判断を必要とする会議、役員会等、院内会議は非常に多い。これらに使用する資料も、データ分析から作成される場合が多く、従来は、文字と数字の羅列/率(%)等を多用されていて、必要に応じてグラフが散見される程度ではないだろうか?しかし、文字や数字の羅列からはインパクトが少なく、「いつもの数字」という認識から、多少の変化があっても誤差の範囲という認識に陥りやすいという現実もある。さらに、このような資料の常態化が、医療経営における危機感の欠如に繋がる可能性も否定できない。今や、医療経営で「左うちわ」で余裕を持って経営している医療機関はほぼなく、どこの医療機関でも経営的数字とにらめっこ状態で、打開策を模索している状況が一般的である。

医師は数字には非常に強い。日々の診療における検査結果、学会発表資料、論文執筆等データを扱うことは非常に多い為、数字に対する見極めは非常に早く正確である。しかし、日々目にする3桁程度の検査結果やn=○○○といった場合でも、数字が8桁、9桁になることは少ない。さらに院内会議では、売上に関する資料などは、桁数、項目数共に多く、中身を見ること自体疲れるものが多いが、分析結果の見せ方によっては直感的に多くの気づきを期待することも可能になる。


5.BIツール体験

 一般企業では一般的になりつつあるツールであるが、医療界では、まだまだ浸透していないツールである。BIツールとは「Business Intelligent Tool」のことであり、大元のデータを可視化し、直感的に数字データを見せるツールである。分析にかける時間を短縮できる可能性もあり使えるようになれば、院内での各種資料についても従前とは全く違った形でのプレゼンテーションが出来るようになる。Excelが一定程度以上使える人であれば、グラフ機能やPivot Table昨日である程度の可視化資料を作成することは可能である。Excelと何が違うのか?

真面目な所長・医療介護データ研究所より引用


このように、Excelで出来る領域と異なることはご理解頂けるだろう。前述の通り、Excel

でも一定程度の「解釈」や「伝える」ことは出来る。

集める→加工する→解釈する→伝える→意思決定する→行動する→成果を得る

このような文字や数字(数値)の羅列では、伝わるものも伝わらず、貴重な意思決定のチャンスを逃す可能性にも繋がる。このような文字で表記する場合と、図のようなスライド・図表等で表示するのでは、内容は同じでも受ける印象は大きく異なる。

これが、ExcelとBIツールの最大の違いである。

このBIツールを使いこなすには相当の時間を必要とするため、なかなか手が出せず二の足を踏むケースが多いが、体験することで、自院で使えるイメージを掴んでもらうことは可能である。重要なのは、このツールを使って自院の意思決定にどのようなインパクトが与えられるかを「イメージ」することで、その部分を体験という形で提供していきたいと考えるのである。


6.院外経営企画室というもの

 今まで述べてきたように、病院経営におけるデータ分析は、複雑化しており、なかなか自前でなんとかすることが出来ない医療機関も多い。今後、自前で出来るように院内教育をしていくことは非常に重要な事ではあるが、一方で、目先の状況についても考えなければならない。教育しながら目先の事態にも対応していくと言うことは、なかなか困難を極める事になる。院外経営企画室とは、そのような院内で抱える問題を解決し、将来に向けた教育を行っていくプランである。

ⅰ)データ分析

  医療機関からデータを預かり、多角的(院内/院外)に分析とレポーティングする

ことで、現状理解と将来への発展に繋げていただく。

ⅱ)人材教育

  分析を担う担当者に対する教育であるが、院外経営企画室から提示されるデータ

や分析結果は、担当者にも共有いただき、何をどのようにしていけば良いのかを理

解してもらう。さらに、各種帳票やフォームは、院内にある物を流用しつつ、院外

経営企画室の方でも準備をし、そのフォームを使って将来的に業務の引継ぎが行

えるようにする事も可能である。つまり、データの収集から分析、BIツールを使

った資料作成等もそのまま引き継ぐことが可能となるシステムである。

新規にこのような部署を立ち上げる、または既存スタッフに追加負荷をかけるこ

とは、医療が労働基準監督署の指摘を受ける昨今、人材の有効活用という視点では

効率的であるとは言えない。医師の働き方改革で、医師以外の多くの職種に負荷が

かかることが想定されており、人件費の上昇も懸念される中で、どのような取捨選

択をもって今後の医療経営に望まなければならないか?は熟考が求められるが、

時間をかけて解を見出すという時間的ゆとりがないことも厳然たる事実であるこ

とを受け止めなければならない。

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